臨床研究

当研究室では積極的に臨床エビデンス構築に取り組み、重要な診療ストラテジーを世界に発信しています。当科を中心に確立したエビデンスは国内外のガイドラインやリコメンデーションの基盤として採用されています。

関節リウマチにおけるアダリムマブ使用時のメトトレキサート半減試験 (MIRACLE STUDY)

メトトレキサート未使用関節リウマチ患者におけるアダリムマブ追加投与時のメトトレキサート至適用量に関する検討(MIRACLE STUDY) は当科が中心となり国内12施設・韓国6施設・台湾6施設で実施した国際共同研究です。
関節リウマチに対する治療は、まずメトトレキサートを開始し、効果不十分な場合には生物学的製剤を追加する事が世界中で標準的です。しかし、生物学的製剤と併用するメトトレキサートの至適併用量については検討が十分ではありませんでした。本試験は生物学的製剤であるアダリムマブを追加した際に併用するメトトレキサート量を半減しても、アダリムマブ開始24週後のSDAI寛解達成率は、38% vs 44% と効果は同等で、有害事象は 35% vs 20% と少ない結果であり、生物学的製剤開始時にMTXを半減可能である事を示した世界発の試験となりました。(NCT03505008)
(Tamai H et al. Lancet Rheumatol. 2023 Apr;5(4):e215-e224.)
慶應義塾大学病院KOMPAS 慶應発サイエンス


関節リウマチにおけるトシリズマブADD-ON,SWITCHの比較試験(SURPRISE STUDY)

MTX効果不十分かつ生物学的製剤未使用のRA患者233名を対象とした多施設共同介入試験です。MTX併用でトシリズマブ (TCZ) 8mg/kgを導入するADD-ON群と、MTXを中止してTCZを導入するSWITCH群に割り付けたランダム化を実施し、主要評価項目である24週時DAS28寛解達成率は、70% vs 55% (p=0.02)でADD-ON群で有意に優れていました。52週時には両者の差は消失しましたが、関節破壊進行例はADD-ON群で少ない傾向が認められました。TCZはMTX非併用でも効果があることは有名ですが、併用した方が望ましい事を示した重要なデータとなりました。世界的なガイドラインの根拠となっています。
(Kaneko Y. et al. Ann Rheum Dis. 2016 Nov;75(11):1917-1923.)


関節リウマチにおけるヒドロキシクロロキンの先進医療

ヒドロキシクロロキンは海外では1950年代から広く用いられる抗リウマチ薬で、他剤との併用で近年開発された生物学的製剤にも匹敵する効果を発揮することが知られています。海外では長い使用経験から治療効果、副作用ともよく知られていますが、日本では関節リウマチについては現在も承認がされておらず治験の予定もありません。本研究では先進医療の枠組みを用いることで、厚生労働省から許可を得て日本人関節リウマチ患者を対象としてヒドロキシクロロキン治療を行い、日本人における同剤の有効性、副作用の確認と作用のメカニズムを明らかにしています。
(Takei H et al. Mod Rheumatol. 2023;34(1):50-59.)


SLEにおける早期LLDAS達成の重要性


低疾患活動性状態(LLDAS)はSLEの現実的な治療目標として世界的に認知されていますが、重度の活動性SLE患者における寛解導入療法後のLLDAS達成までの期間の意義は不明でした。実臨床データを用いた解析から、LLDAS達成が早期であると観察期間中のLLDAS割合が高く、ステロイド積算量が少なく良好な経過を辿ることが示されました。一方で、6ヶ月以内の達成は7.6%にとどまり、血小板減少、腎機能障害、ステロイドパルス療法を要する症例は12ヶ月以内のLLDAS達成割合が低く、リスク集団におけるSLE治療戦略を見直す必要性が示唆されました。
(Kikuchi J. et al. Rheumatology (Oxford). 2022 Aug 30;61(9):3777-3791.)



皮膚筋炎・多発性筋炎に合併する間質性肺炎におけるKL-6の役割

皮膚筋炎・多発性筋炎では高頻度に間質性肺炎(ILD, interstitial lung disease)を合併し、予後にも大きく関連します。筋炎関連ILDを適切に管理する上でバイオマーカーが重要ですが、あまり検証されていませんでした。慶應病院に通院中の筋炎患者の臨床情報を用いた解析から、ILD合併群はILD非合併群と比較して、有意に診断時KL-6が高値(1120 vs 236 U/mL, p<0.001)でした。また、ILD合併群において、再燃群は非再燃群と比較して有意に診断時KL-6が高値(1870 vs 935 U/mL, p=0.003)であり、KL-6≧1359 U/mL(p=0.02)は抗ARS抗体陽性(p=0.04)、%VC≦70.5(p=0.004), 上肺野病変の存在(p=0.01)と同様に将来の再燃の予測に有用であることを示しました。さらに経過中のKL-6 625 U/mLの上昇は治療強化を必要とするILD再燃と関連していることを明らかにしました。以上から血清KL-6は筋炎に合併するILDの診断、活動性評価、再燃などの評価に有用なバイオマーカーであることが示唆されました。
(Takanashi S, et al. Rheumatology (Oxford). 2019;58(6):1034-1039.)


成人スティル病に対するトシリズマブの医師主導治験

副腎皮質ステロイド治療で効果不十分な成人スティル病患者さんを対象に抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブの有効性・安全性を確認する二重盲検ランダム化試験を当科を中心とした医師主導治験として行いました。主要評価項目である4週時のACR50達成はトシリズマブ群で61.5%、プレセボ群で30.8% (p=0.24)でしたが、12週でのsystemic feature scoreの変化は各々 -4.1 vs -2.3 (p=0.003)、12週時の副腎皮質ステロイドの減量率は各々 46.2% vs 21.0% (p=0.017)で、systemic feature scoreの改善とグルココルチコイドの減量を認めました。成人スティル病はステロイド以外によい治療がありませんでしたが、成人スティル病のマネージメントを大きく変えるデータとなりました。本研究結果を踏まえ、日本では世界に先駆けて成人スティル病に対しトシリズマブの保険適用が認められました。
(Kaneko Y et al. Ann Rheum Dis. 2018 Dec;77(12):1720-1729)


成人スティル病におけるトシリズマブの寛解後中止


近年、治療抵抗性の成人スティル病に対して生物学的製剤であるトシリズマブが広く使用されるようになりましたが、トシリズマブを使用し病勢がコントロールされた後、どのような場合にトシリズマブを中止できるかは明らかになっていませんでした。 当院でトシリズマブを使用した成人スティル病患者48人を検討したところ、トシリズマブを中止すると1年以内に半数の方で再燃を起こしていました。再燃した方・しなかった方で中止時の病勢に差はありませんでしたが、プレドニンを7mg/日未満まで減らした方やトシリズマブの投与間隔を3週以上まで延長した方では中止後の再燃が少ない事が明らかになりました。
(Tamai H, et al. Rheumatology (Oxford). 2024 Mar 20:keae179.)


その他臨床研究

当研究室では他にも以下のような研究に取り組んでいます。大学院入学1年目から臨床研究を開始しています。

  • 関節リウマチの疾患活動性評価におけるCDAIとDAS28の差異
  • difficult-to-treat RAの臨床的特徴
  • 高齢発症RAと若年発症RAの臨床的特徴の差異の検討
  • MTX併用ADA投与RA患者における治療維持期の最適投与法の確立(MASTER study)
  • 関節リウマチに対する生物学的製剤使用と非結核性抗酸菌症の発症、増悪リスク
  • 関節リウマチに併発する肺病変と生命予後
  • 関節リウマチと慢性腎臓病の関係
  • 関節エコーガイド下滑膜生検法の安全性と滑膜組織の検討
  • SLEと関節リウマチのオーバーラップ症候群の臨床特徴
  • ループス腎炎の寛解導入期におけるDeep Remission達成の意義
  • SLEの寛解導入療法開始後の低疾患活動性状態に関する検討
  • MCTDに伴う肺動脈性肺高血圧症の特徴と原疾患の予後推定
  • 肺動脈性肺高血圧症の長期予後解析
  • 筋炎関連間質性肺炎の再燃予測因子
  • 抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎間質性肺炎におけるトファシチニブの有用性・安全性
  • ANCA関連血管炎の臨床的特徴
  • IgG4関連疾患におけるリンパ節病変の臨床的意義
  • IgG4関連疾患における縦隔線維症の特徴
  • 成人スティル病における初発症状の経時変化の研究
  • 成人スティル病におけるマクロファージ活性化症候群の臨床特徴
  • 膠原病患者に対する寛解導入療法中のCMV感染の臨床的特徴
  • 電解質異常が自己免疫にあたえる影響
  • 膠原病患者におけるサルコペニアの研究