研究内容

自己免疫疾患における病因的自己免疫応答の解析と選択的治療法の開発

自己免疫疾患とは本来は病原微生物や悪性腫瘍に対して向けられるべき免疫応答が自己成分を標的とするために組織障害をきたす原因不明の一群の疾患です。治療に用いられる副腎皮質ステロイドホルモンや免疫抑制薬は免疫抑制作用が非特異的なため、効果が過度になれば免疫不全による感染症や悪性腫瘍を誘発し、不十分であれば効かないというジレンマに陥っており、病態に基づいた選択性の高い治療法の開発が切望されています。

私たちの研究グループでは、これまで一貫して臨床検体を用いて自己免疫疾患患者における自己反応性T細胞を解析してきました。対象疾患は特発性血小板減少性紫斑病、抗リン脂質抗体症候群、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、全身性エリテマトーデス、強皮症、ANCA関連血管炎など多岐に渡ります。

これら疾患を有する患者から自己抗体産生を誘導する病因的な自己反応性CD4+T細胞を同定し、それらの詳細な解析を行ってきました*1。また、ベーチェット病では自己反応性CD8+T細胞が病態形成に関与することも見出しています*2
これらの研究成果を通じて、病因的な自己反応性T細胞は正常のT細胞レパトワの一部で、自己反応性T細胞の活性化により自己免疫応答が誘導されることを明らかにしています*3

現在、これまで集積してきたヒト自己反応性T細胞に関する知見、実験法のノウハウに基づいて自己免疫疾患の病因解明と選択的治療法の開発をめざした研究を展開しています。ヒト検体を用いたin vitroの研究成果を動物モデルによるin vivoの解析により検証し、さらに実際の自己免疫疾患患者に対する臨床試験へと発展させることを目指しています。

例えば、自己免疫疾患患者の自己反応性T細胞の活性化を誘導する機序として特定の微生物の感染や標的組織における遺伝子発現変化を見出しています。また、ある種の樹状細胞サブセットや副刺激シグナル抑制により病原性を持つ自己反応性T細胞を免疫抑制性T細胞へと形質転換できることを見出し*4、正常の免疫機構に影響を与えない自己免疫疾患に対する新たな治療法として応用できる可能性を追究しています。(下図参照)

MOMCの概要図
  • *1 J Immunol 1997;158:485, J Clin Invest 1998;102:1393, Blood 2001;98:1889, Blood 2002;99:2499, J Neuroimmunol 2003;137:177, Blood 2005;105:1552など
  • *2 Arthritis Rheum 2004;50:3658
  • *3 Thromb Res 2004;114:347, Int J Hematol 2005;81:106
  • *4 Eur J Immunol 2001;31:2547

単球由来多能性細胞の分化能、遺伝子発現の解析および再生医療への応用

現在の医学に残された大きな課題は疾患、外傷などによる臓器の欠失や機能障害の克服です。最近の幹細胞および発生生物学の進歩に伴って臓器再生を目指した再生医学が注目され、21世紀に進むべき医療の方向性として期待されています。しかし、再生医療が現実のものとなるためには分化能を有する細胞の安定供給が必要不可欠です。

私たちの研究グループでは、末梢血単球を特定の条件で培養すると、骨、軟骨、骨格筋、脂肪などの間葉系細胞、血管内皮細胞、心筋、神経へと分化する能力を持つ多能性細胞へと形質が転換することを見出し、この細胞を単球由来多能性細胞*5と名付けました*6

MOMCの概要図

この発見は、単球は生体内でマクロファージ、樹状細胞などに分化して免疫応答に重要な役割を果たすだけでなく、MOMCへの分化を介して損傷組織の修復、再生にかかわる可能性を示しています。また、MOMCは末梢血単球からin vitroで容易に大量に誘導できることから、臓器再生のための細胞移植に適した多能性細胞となる可能性も秘めています。

現在、MOMCの有する組織再生能を細胞生物学的、分子生物学的なアプローチを用いて詳細に追究し、近未来におけるMOMCを用いた再生医療を具体化するための基礎研究を行っています。

  • *5 monocyte-derived multipotent cell; MOMC
  • *6 J Leukoc Biol 2003;74:833, Stem Cells Dev 2005;14:676, Immunol Cell Biol 2006;84:209

ヒト血管内皮前駆細胞の機能解析とその異常に基づく疾患に対する治療法の開発

最近の血管生物学の進歩により成人における血管新生や血管の修復機転が解明されつつあります。血管内皮が障害されると既存の血管内皮細胞が増殖、遊走することで修復されると考えられてきましたが、流血中の骨髄由来の血管内皮前駆細胞が欠損部分の修復に重要な役割を果たしていることが明らかにされました。

血管内皮前駆細胞は末梢血単核球の0.01%以下ときわめて頻度の少ない細胞ですが、私たちはヒト血管内皮前駆細胞の正確な数を測定し、さらに成熟血管内皮への分化能を調べるアッセイ法の開発に成功しました。これらアッセイ法を用いることで、末梢循環障害を伴う強皮症患者で血管内皮前駆細胞の著明な減少と成熟血管内皮への分化能の障害を見出しました*7

血管内皮前駆細胞異常に基づく強皮症患者にみられる血管病変の形成機序(仮説)

私たちの報告のあとに、海外の研究グループから強皮症のみならず関節リウマチや全身性エリテマトーデス患者でも血管内皮前駆細胞の異常が報告されています。これら疾患では血管内皮前駆細胞の分化、動員を誘導する手法により血管内皮前駆細胞の異常を是正できる可能性があります。そこで、動物モデルを用いたin vivoの解析により候補となる手法の有用性を検証(参考資料PDF)し、さらに実際の患者に対する臨床試験へと発展させています。例えば、高脂血症治療薬のスタチン系薬剤が強皮症患者の末梢血中の血管内皮前駆細胞を増やし、レイノー現象をはじめとした末梢循環障害を改善することを示しました*8

今後、他の手法を用いることで膠原病に伴う循環障害に対する新たな治療法の確立を目指します。

  • *7 Lancet 2004;364:603
  • *8 Arthritis Rheum 2006;54:1946

病的線維化を抑制する新規治療法の開発

肺線維症、肝硬変、腎硬化症、強皮症など過剰な線維化が正常組織機能を障害することで誘発される疾患が数多く存在します。これら線維化病態に対しては依然有効な治療法がありません。線維芽細胞の増殖、細胞外マトリックス産生にはTGF-ßを介したシグナルが重要な役割を果たすことが知られていますが、TGF-ßは線維化のみならず免疫、細胞分化など多彩な生理機能を有することから、抗線維化療法の標的にはなりづらい。

そこで、私たちは、患者の病的線維化部位で増殖している線維芽細胞に高発現する分子、あるいは同部位で観察されるT細胞と線維芽細胞の相互作用に着目し、それらを標的とした治療法を検討しています。また、治療効果の評価法として、強皮症やケロイド患者由来の皮膚を免疫不全マウスに移植したキメラ動物を用いたin vivoに近い環境での検討をしています。

筋炎特異自己抗体の産生機序の解明

細胞内の生命現象に関与する種々の酵素や調節因子に対する自己抗体が膠原病患者血清には見出され、各々が特異的臨床像と密接に関連し、診断、病型分類など臨床的に有用であることが明らかとなっています。多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM) 患者血清においても、蛋白合成に関与するアミノアシルtRNA合成酵素、シグナル認識粒子に対する筋炎特異自己抗体が報告されています。

研究室では、かかる自己抗体と関連する臨床病態や免疫学的性状を明らかにし、さらに、抗KS(アスパラギニルtRNA合成酵素;AsnRS)抗体を世界に先駆けて見い出しました*9。しかし、これらの自己抗体の産生機序および臨床病態との関連は不明です。

私たちはこれらの成績に基づき、以下の様な追究を行っています。

  1. 筋炎の病態形成に関与する新たな筋炎特異自己抗体の追究
  2. 新たな筋炎特異自己抗体と関連する病態(臨床免疫学的特徴)の検討
  3. 筋炎特異自己抗体と関連する筋病変の免疫組織学的解析
  • *9 Arthritis Rheum.39:146,1996;J.Immunol.162:2315,1999

急速進行性間質性肺炎合併皮膚筋炎と関連する新規自己抗体の追究

皮膚筋炎のサブタイプである臨床的に筋炎症状を伴わない症例*10は、抗ARS抗体などの筋炎特異自己抗体が陰性であることが一つの特徴とされ、特異的な自己抗体の存在は明らかではありませんでした。一方、臨床上、このようなC-ADM症例のもう一つの特徴として、治療抵抗性で生命予後不良な急速進行性間質性肺炎を併発することが知られています。このような症例に関連する特異自己抗体の追究は、その早期診断・治療法の選択に有用で予後の改善につながることが期待され、重要と考えられます。

当教室では、C-ADM患者血清中に、約140kDa蛋白を認識する自己抗体を見出し、抗CADM-140抗体と命名しました*11。抗CADM-140抗体は、DM42例中8例 (19%)に認め、全例C-ADM症例でした。また、抗CADM-140抗体陽性DM例は陰性DM例と比較して、急速進行性間質性肺炎と密接に関連していました。

現在、抗CADM-140抗体の対応抗原を明らかにするために、その抗原蛋白を精製し、SDS-PAGEで展開し、蛋白分析をおこなっています。多施設共同研究により同抗体陽性症例を集積し、抗CADM-140抗体陽性症例の疾患特異性および臨床特徴の確認を予定しています。それと平行して、同抗体の対応抗原を明らかにし、その精製抗原を利用した抗CADM-140抗体測定ELISA法の確立することにより、実際の臨床に還元することを目指しています。

  • *10 Clinically Amyopathic Drmatomyositis: C-ADM
  • *11 Arthritis Rheum. 2005; 52: 1571

特発性間質性肺炎(IIP)に関連する自己抗体の検討および自己抗体を利用した病型分類の試み

IIPは、労作時呼吸困難、乾性咳嗽を主訴とし、びまん性に肺間質の線維化が進行する予後不良の疾患です。しかし、IIPは、臨床的に非常に不均一な疾患の集まりと考えられており、IIPの中には膠原病と診断されませんが、膠原病に伴う間質性肺病変と考えられる症例や肺病変先行膠原病症例が含まれている可能性があります。そのため、治療効果も症例により異なり、その治療法もコンセンサスが得られていないのが現状です。これまで、間質性肺炎に関連するとされる自己抗体がいくつか報告されており、抗アミノアシル合成酵素に対する抗体(抗ARS抗体)などの間質性肺炎関連自己抗体を組み合わせて、IIPの病型分類を試みることは、IIPの治療法の選択や予後の推定などに有用と考えられます。

これまで、私たちは、IIP患者血清中のII型肺胞上皮細胞成分と反応する成分の検討を免疫沈降法でおこない、II型肺胞上皮細胞のいくつかの蛋白成分を認識する未知の自己抗体の存在を見いだしました*12。そこで、IIP特異的な自己抗体を追究するために、既知の自己抗体の検索を含めてさらなる検討を行いました。その結果、上記未知の自己抗体以外に IIP 34例中11例血清中に抗ARS抗体が見いだされました。その臨床特徴を検討したところ、同抗体陽性IIPは、陰性IIPと比較して、発症年齢が若く、レイノー現象が高頻度であることが明らかになりました。

今後は、未知の自己抗体の対応抗原の分析、同抗体陽性IIP症例の臨床特徴を検討をおこなうとともに、さらに症例を集積し、抗ARS抗体陽性IIPおよび陰性IIPの治療反応性や予後について検討し、病型分類を試みる予定です。

  • *12 Arthritis Rheum. 2000,43: S1285

ステロイド誘発性骨粗鬆症の予防および治療に対するビスホスホネート製剤および活性型ビタミンD3製剤の治療法に関する検討

膠原病の治療において、副腎皮質ステロイドホルモンは有効な治療法のひとつですが、長期投与した場合の副作用として骨粗鬆症に伴う骨折が問題となっています。これまでの検討で、ステロイド投与早期から、また少量投与においても骨密度の減少が引き起こされることがわかっています。特に高齢者では、いったん骨折を生じると歩行不能や寝たきり状態となる危険性が大きく、さらなる骨粗鬆症の進行や患者の生活の質(QOL)の低下をもたらし、医療経済学的見地からしても、好ましいものではありません。

近年、ビスホスホネート製剤の老人性骨粗鬆症やステロイド誘発性骨粗鬆症例に対する骨折の治療および予防に対する有効性が大規模プロスペクティブスタディで証明され、本邦でも、早期から骨折予防を目的としたビスホスホネート製剤を中心とした積極的な治療がガイドラインでも推奨されています。

当科においても、ステロイド誘発性骨粗鬆症の骨折治療に対して、ビスホスホネート製剤を積極的に使用しています。これまで、われわれは、膠原病患者のステロイド誘発性骨粗鬆症を対象として、第1世代ビスホスホネート製剤であるエチドロネート間歇療法の3年間投与における有効性および安全性を無作為前向き試験で示しました*13。さらに、エチドロネート製剤の有効性と安全性を確認するために、7年間投与の追跡試験をおこない、その結果についてまとめています。さらに、第2および第3世代のビスホスホネート製剤と活性型ビタミンD製剤の併用効果を検討するため、あらたな無作為前向き試験を開始しています。

今後は、これらの臨床試験の結果をふまえ、骨折予防の観点でより有効性が高く、安全である治療法の確立を目指していく予定です。

実施中の研究に関するお知らせ

関節リウマチ新分類基準検証について2009年1月から2010年3月の間にリウマチ内科を初めて受診された方を対象に、関節リウマチ新分類基準の妥当性を検討するための調査を行っています。研究はカルテを遡って調査し解析をします。情報は完全に匿名化した状態で扱われ、患者さんに不利益が及ぶことはありません。お問い合わせのある方は当科へご連絡ください。